そう言って彼が指差したのは円香が悩みに悩んでいたカフェオレの片方で。

あまりに突然の言葉に本当に自分に言われているのかと反応が遅れる。

だが彼は明らかに自分の方を向いていて。



「え、あ…み、右?」



こんなイケメンに声をかけられる日が来るなんて想像もしていなかった円香の声はわかりやすく裏返っている。



「そ、右。右のが美味い」



そんな円香にまたにこりと笑う彼。

ようやく真正面から受け止めた彼のその笑みに何故か円香の胸がツキリと痛んだ。



(…ん?)



どうしたのだろうかと思わず自分の胸の辺りで手を握る円香。


彼の笑った顔に一瞬だけ見えた影。

寂しげな、影。


それはほんの一瞬の出来事で、すぐに消えてしまったけれど、円香の目には鮮明に焼き付いて。