「え……」

ヒナが心臓をおさえた姿勢のまま硬直するその背後で、黄色い歓声があがってた。


「キャーッ!」
「キャーッ!!」
「キャーッ!!!」
「タイガさんじゃないですかぁっ!」

「ん?」

タイガのとまどいをよそに、女子社員たちはなれなれしい口調で声をかける。

「おひさしぶりですー!」
「あれ、ほっぺた左側だけ赤くないですか?」
「氷ありますよっ」
「冷やします?」

さきほどまでのヒナに対するツンケンした態度とはうって変わった愛想のよさである。
女子社員たちの口さがない会話で、若くして“事業部長”の座についたタイガが“優良物件”として取り上げられるのを、ヒナは何度か耳にしていた。
いっぽう、声をかけられた兼森タイガは、その女子社員たちの顔をまじまじと見た後で――

「ああ、きみたちは……あ、このあいだのプロジェクトの打ち上げで会った……かな」

と、こちらもまたヒナに対していたのとはうってかわった自信なさげな態度で答える。

「やだー、忘れちゃたんですか?」
「えーひどーい!」
「……女性は化粧や服で別人みたいに変わるから……会社の制服だとどうも……」
「そーいうなら、今から私服に着替えてきましょうか?」
「あっせっかくだから今からランチどうです?」
「ランチミーティング!」
「タイガさんのお話聞きたいですー!」
「いや、それは、また今度で……それより、ここに――」

体をおしつけるかのごとき勢いでぐいぐいと話しかけてくる女子社員に軽く上半身をのけぞらせながら、タイガが一瞬迷ったのちに、尋ねる。

「――ヒナ、って女、いるか?」

「え?」
「……ヒナ?」

女子社員たちの声が、途端に険悪なものに変わった。