「そういうことならもっと早く言ってくれないとー……おなかへっててちょっと無理です」
「あの……ほら、会社のことだし。仕事だし。がんばろうよ」
「でもぉー……あーー、そういえばヒナさん、午前中、長時間席外ししてませんでした?」
「えっ?」

惣右介に呼び出されたときのことだ。たしかに、無断で長時間席を離れたのは間違いない。

「あれは……」

しかし、まさか“この会社の会長に呼び出されていた”とは――なにか荒唐無稽すぎる気がして――言えなくて。
ヒナは、どうしようもなく口ごもった。
そんなヒナのようすに、女子社員は勝ち誇った表情になる。

「まあ、なにをしていたのかいちいち問い詰めたりはしませんけど? その分の穴埋めだと思って、よろしくお願いしまーす」
「お願いしまーす」
「さっすがヒナさーん!」
「じゃ、早くランチ行こ!」
「そういや、イケメンイタリアンでいい?」

弾むような声とともに、女子社員たちの席を立つ音。

「え……ちょっと……」

さらに、このやりとりが聞こえていないはずはないのに、知らないふりで同じように部屋の出口へと向かう男子社員たち。
誰も、面倒ごとに関わるのはごめん、ということなのだろう。

(仕方ないか……)

ヒナは内心ため息をつき、今日の昼ごはん抜きを覚悟して、改めてパソコンに向かう。

そのとき――

「おい」

皆が向かうフロアの出入り口のほうから聞こえてきたその声に、ヒナは思わず椅子からとびあがった。