ヒナが所属するこの“業務推進本部2課”は、別名“タカミ商事の産廃置き場”と呼ばれている。
ヒナ以外は全員正社員であるものの、元の配属先で「猫の手でも借りたほうがまだマシな役立たず」と認定されたコネ入社の男性社員や、不倫していた上司の引き立てで地位を得たものの上司の失脚とともに立場を失った女性主任などがうごめいている。

そんななか、三年前からここに勤務しているヒナは、この部署のなかで唯一まともに「仕事をしている」社員だった。

「そうですよ、ヒナさん、知ってるならやっておいてくれればよかったのに」
「でも……頼まれたのは……」
「だいたい、新規取引先の資料ったって、どうやって作ればいいのかよくわからないし」
「誰が頼まれても、結局ヒナさんがやってるじゃないですかー」
「それはそうだけど……でも、課長が指示を出したのは……」
「じゃあ、あたしのかわりにヒナさん、やっておいてくださいよ。そのほうがいい資料もできますし。ねっ?」

部署のなかで最も仕事ができ、キャリア的にも最古参であるが、しかしヒナの立場はあくまでも派遣社員のまま。

自分よりも若く給料ばかりは高い正社員の女子たちに「これをやれ」と言われれば、断りづらい立場である。

「でも……あ! あの、それじゃあ、一緒にやるっていうのはどうかな。今からじゃ、さすがにひとりで午後いちに間に合わせるのは難しいし」
「えー……」

言われた女子社員が、あからさまにいやそうな表情で壁の時計を見る。時計の針はすでに、12時をまわっていた。