「やっちゃった……」
今日初めて会った相手、しかも、この会社の重役クラスを叩いてしまった――
ヒナが頭を抱えているその隣では、同僚の女子社員たちが、ランチをなににしようかという会話で盛り上がっている。
「いつものカフェにする?」
「あそこ月曜日はカウンターに若い女いるじゃん」
「あー、あの、マスターとできてそーな……」
「じゃあ無しだわ」
「こないだできたイケメンイタリアンは?」
「それなに?」
「シェフも店員もイケメンだらけなのよね」
「なにそれ! いいかも!!」
楽しそうな笑い声。口は良く動くのだが、その間、仕事を進めているべき手は、キーボードの上に置かれたままピクリとも動いていない。
両手とも添えるだけ、では、なんの仕事も進んでいないのは明白だ。
「あの……」
「はい?」
ヒナが呼びかけると、全員がいっせいに顔をヒナのほうへと向けた。
「あの……課長が午後イチで出せって言ってた新規取引先資料のまとめって、大丈夫?」
「えー? そんなこと言われてた?」
ヒナに言われた女子社員が、否定して、といわんばかりの口調で周囲に尋ねる。
周囲は周囲で
「聞いてない」
「なにそれ」
「聞き間違いじゃない?」
などと、口々に答える。
「私が聞いた限りは……午後の会議で使うから、資料を揃えて12部コピーしておいておいてくれって……」
無責任な、という非難の言葉をどうにか飲み込んで、ヒナはチラリと課長席のほうを見た。
その席に座っている40代半ば過ぎの課長は、30分以上前にタバコ休憩に入ったまま、いまだに戻ってこない。
「えーそんなこと言われてもー。聞いてないのにどうしようもないっていうか……ヒナさん、知ってるならどうしてやっておいてくれなかったんですかぁ?」
女子社員が、なぜかヒナを非難する口調になった。
今日初めて会った相手、しかも、この会社の重役クラスを叩いてしまった――
ヒナが頭を抱えているその隣では、同僚の女子社員たちが、ランチをなににしようかという会話で盛り上がっている。
「いつものカフェにする?」
「あそこ月曜日はカウンターに若い女いるじゃん」
「あー、あの、マスターとできてそーな……」
「じゃあ無しだわ」
「こないだできたイケメンイタリアンは?」
「それなに?」
「シェフも店員もイケメンだらけなのよね」
「なにそれ! いいかも!!」
楽しそうな笑い声。口は良く動くのだが、その間、仕事を進めているべき手は、キーボードの上に置かれたままピクリとも動いていない。
両手とも添えるだけ、では、なんの仕事も進んでいないのは明白だ。
「あの……」
「はい?」
ヒナが呼びかけると、全員がいっせいに顔をヒナのほうへと向けた。
「あの……課長が午後イチで出せって言ってた新規取引先資料のまとめって、大丈夫?」
「えー? そんなこと言われてた?」
ヒナに言われた女子社員が、否定して、といわんばかりの口調で周囲に尋ねる。
周囲は周囲で
「聞いてない」
「なにそれ」
「聞き間違いじゃない?」
などと、口々に答える。
「私が聞いた限りは……午後の会議で使うから、資料を揃えて12部コピーしておいておいてくれって……」
無責任な、という非難の言葉をどうにか飲み込んで、ヒナはチラリと課長席のほうを見た。
その席に座っている40代半ば過ぎの課長は、30分以上前にタバコ休憩に入ったまま、いまだに戻ってこない。
「えーそんなこと言われてもー。聞いてないのにどうしようもないっていうか……ヒナさん、知ってるならどうしてやっておいてくれなかったんですかぁ?」
女子社員が、なぜかヒナを非難する口調になった。