いつか、僕は親友とこんな会話をした。
「たぶん、人生とかいうのに疲れて、どうしようもなくなって自殺したとしても、笑顔で天国にいける気がする」
 高二の夏休み前の休み時間、ざわざわと騒がしい教室の一角で僕らは、どんな流れかは忘れたが、なぜか『死』なんて、やたらと重いテーマで会話をしていた。
「あぁ、たぶんお前ならそうだろうな。うらやましい限りだよ」
 彼はほんの少しさわやかな笑みを浮かべて言った後、少し苦笑いをして続けた。
「僕はたぶん、笑えない。怖いとか、悲しいとかばっか考えて、先のことなんて考えられないだろうなぁ」
 先のことなんて、と彼が言った瞬間、背中がぞわりとした。
 彼の目が、恐ろしく澄んでいて、そんなことないって! なんて普遍的なフォローが、頭にはあるのに、言葉が上手く続けられなかった。何故か。
 どうしても、彼が冗談まじりに言っている様に思えなくなってきて、慌てて僕は次の授業が体育だとあからかさまに話題を変えた。
 彼も時計をちらりとみて、そうだね、とかばんをつかんでニカッと笑った。
 そうして僕らは着替えの教室に向かい、そして、彼は次の日に――。

「なんで僕だったんだか」
 隣にどっかりと降ろした、部屋から持ち出してきたリュックサックの紐のところに小さなキーホルダーがついている。
 これは彼の遺品で、彼が自転車に跳ねられた時に落ちたものだそうだ。
 大体なぁ、とキーホルダーをリュックから外す。
 それは冷たい銀でできた四角の一センチ程度のもので、ぎゅっと力を入れて握ると、金属の独特な冷たさと、ずっしりとした重みを感じた。
 普通小説だとか漫画だとかだと格好良くてモテて、勉強もできて、皆に好かれる奴が最後まで生き残るっていうのに、なんで僕が残ったんだろう。