「酷い顔」のまま課に戻った。

戻る途中でコーヒーを零してしまったことを思い出し、休憩スペースへ立ち寄った。

零したはずのコーヒーは既に跡形もなく拭かれた後だった。
誰が拭いた?と考える時点で、先輩しかないだろうと気がつく。

申し訳なくなる。
何から何まで世話ばかりかけてる。
本当に私は出来の悪すぎる後輩だ。


カタッ…と椅子を引いて座ると、目の前にいる人は正しく鬼の形相で私のことを睨んだ。

「帰らなくていいのか」って顔してる。
そんな顔をされても、私は帰ったりできない。

帰ったところで眠れないんだ。
さっきと同じように悪夢に魘されてばかりで、少しも眠った気がしないんだから。



「空君」


若干鼻にかかった声が鬼を呼んだ。
呼ばれた人は視線を逸らし、私の右隣にいる女性を見つめる。
向かい側から差し出された書類を受け取り、さらっと目を通した。


「オッケー。このまま進めて」


すんなり了解を得られる人は羨ましい。
私は必ず一言二言イヤミが加わるのに。



「ナッちゃん?」


ハッとして我に返る。
声の主を振り向くと、心配そうに眉をひそめられた。


「大丈夫?顔色悪いわよ」


「死期が近づいてるからですよ」

……とは言えないので。


「ちょっと貧血気味だからでしょう」


そう言ってごまかした。