「……」

袋を取る男。

中から、金の短髪、蒼い瞳の顔が現れた。

ロシア人特有の、やや冷徹そうに感じられる表情に乏しい顔。

しかしニュースや新聞で、頻繁に目にした事のある顔だった。

間違いない、ニコライ・ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ。

ロシアの現大統領だ。

「…すまない、またテロリストの連中が小屋に戻ってきたかと思っていた」

「いえ。御無事で何よりです。見事な首投げでした」

立ち上がるバニング。

「さぁ、安全な場所へとご案内します大統領」

彼を外へと連れ出そうとするバニング。

そんな彼に。

「ひとつ訊きたい事がある」

ニコライは質問した。

「妻と娘は…どうなった?」

「……」

しばしの沈黙の後。

「大統領のご自宅は、テロリストに内通していたSPによる人間爆弾によって爆破されたと聞いています…恐らくは奥様とお嬢さんも…」

「そうか」

泣くでもなく、怒るでもなく、バニングに呟いたニコライは。

「すまないがもう1つ…私に何か着る物をくれ」

…確かに、ニコライの要求は尤もだ。

拉致された時に脱がされたのか、彼は上半身裸だった。