「あなたが今、晶を殴れば、晶の言った事を肯定する事になります」

 母さんは顔だけ振り返り、俺にこう言った。

 「晶、あなたも言い過ぎ!

 試合に負けたのは残念だったけど、仕方ない事よ。

 精一杯の力で勝ち負けを賭けて、最期の試合に臨んでのなら、悔いは残らないはず!

 だからこそ、イヤな思い出も重ねて欲しくない!」


 母は、親父の動きが完全に静止するまで、俺の前から動かなかった。


 親父は振り上げた腕の行き場所を失った。

「お前ら、どいつもこいつも‥‥」
と小さく呟くと家から出て行った。


 柊は、ポカーンとした顔で、冷やし中華を食べる手が止まり、ずっと無言のままこっちを見ていた。

 母さんは落ち着きを取り戻した頃、

「ご飯食べようっか」
って、俺に言ったんだ。

 その顔は、取り敢えずこの場の地獄は回避出来て安堵した顔をしていたが……

 疲れや虚しさなどが入り混じった複雑な心境だったに違いない。



 それでも、俺には笑顔を向けようとしてくれたんだよな……