私がちゃんと携帯を手元に置いておけばこんな事にはならなかった。
だから全ては私の危機管理能力の甘さであって、環の所為じゃない。
「お店が終わる頃だろうと思いまして、あんな時間に。帰宅して寝てしまう前に安心させたかったんです」
「気を遣ってもらったのにごめんね」
謝罪を口にする私に環は「貴女が謝ることではありません」と言ってくれた。
環は優しかった。物腰や言葉遣いからそう思うんだろう。
テキパキとこなす環はあっという間に襟合わせを直し、脱衣所を出ると私を座敷に招いた。
だだっ広い空間に畳が一面に敷かれ障子で隔たれたその室内に入るや否やピルを飲んだ。
「あの男の事は気にしないでいいです。先程の無礼は僕から謝ります」
部屋には入らず中庭が目の前に広がる縁側に座り私たちに背を向け煙草を吸ってる。
雨の匂いに混じって煙草の匂いが鼻を掠めた。
「クロサキ」と呼ばれてたその男は多分、私とそんな歳は変わらないと思う。
環もだけどこの2人は、雰囲気からしてもしかしたら年上なんじゃないかとも思う。
見た目は私とそう変わらない。けど同い年の葉月と比べたら彼らは落ち着きすぎてる。
身を置いてる環境の差なのか、一緒にいると私ですら惑わされるから何が正解で不正解なのかわからなくなる。