知りもしない男と沈黙の車内に取り残された時は環を疑ったけど、すぐ戻ってきてくれたおかげで思考がグチャグチャにならずに済んだ。


何枚かのバスタオルで私の体を覆うとそのまま抱き上げられ車を降りた。

環に抱きかかえられながら向かったのは和風建築の立派な平屋だった。
住宅地に鎮座するこんな立派な邸宅に当たり前このように進んで行く2人。

敷居を跨ぐ時、それは地獄への入り口かもしれないと思った。


こんなあられもない格好のまま彼等の巣窟に連れて来られて不安しかない。いざ逃げようとしたとしてもボロボロのこの体が使い物になるか考えるまでもない。
それよりもこんな広い屋敷内から外へ出るにも一苦労だ。

不可抗力とはいえここに来てしまった事を悔いる私を、環は浴場へ連れて来た。


外で待ってると言われ急ぐ事を余儀なくされた私はタイム測定をされてるかの如くシャワーを浴びる羽目になった。

気休め程度のシャワーを浴びて脱衣所に上がれば、見知らぬ女性用の下着と寝巻き浴衣がありそれらに身を包んで脱衣所を出る。

すると扉の目の前にいた環は出て来た私を見ると、何故か出て来た脱衣所に再び押し込められた。


「襟が逆です。それでは死者と同じになってしまいます」