アパートから過ぎ去り、どこへ連れて行かれるのか不思議と不安はなかった。
身体が怠くて蹴られた箇所が痛い。
押し込められた後部座席に横になり、向かうどこかへ着くのをただ待っていた。
微かに聞こえるエンジン音と車に打ちつける雨の音しかない車内は静かで、環がくれたジャケットに体が収まるように丸まって今更ながらに羞恥心が芽生えてくる。
何も身につけていない状態で車内に男が2人。運転する環と、助手席に座る偉く顔が整った男。
けど、恐怖心はなかった。
身体的なダルさでそんな気力もない所為なのか、こんな事になって今更どうなってもいいと自暴自棄になってるからなのかは分からない。
こんな事になってるなんて葉月は知らない。
いつの間にか情事が終わって葉月もいなくなってた。
どこにいるんだろう。家を飛びしたけど行く当てなんて葉月にはない。お金もない上にこんな雨じゃそう遠くまで行くことも出来ないはず。
微かに香る煙草の匂いがする環の上着に潜って、雨を凌(しの)げる何かを葉月もあればいいと思った。
「ーーーちょっと待っててください」
車を走らせてどのくらい経ったかは分からないけど、エンジンが停まったのは誰かの敷地内の駐車場。
エンジンを切ったと同時に車を一目散に降りていった環は、バスタオルを持って直ぐに戻ってきた。