人気のない暗い道に、私の笑い声が響いて消えていった。

 私は落ち着いて呼吸を戻す努力をしながら言う。

「その通り、ベビーカーには息子はいないわ。今何時だと思ってるのよ?あの子は寝る時間なのよ、外出なんてするわけないでしょ?」

 ホント、バカだ。

 私は心の中で呟いた。

 今回も、桑谷さんが正しかった。ちょっと悔しいけれど、こいつは彼の考え通りに行動をしたわけね、って。

 蜘蛛男が目を細めて呟いた。

「──────チビは家から出てないんだな。それで、あんたが出てきている。・・・昼間のは、嘘だったわけか」

 私は優雅に肩を竦めてみせた。

 昼間。

 百貨店の店員食堂。

 夫の桑谷さんを見つけて、呼び出した私。

 作戦会議をした。

 普通の声で、今晩彼の実家へ移動するようにと私に指示した彼。

 蜘蛛野郎が言っているのは、それのことだろう。

「・・・やっぱりあんた、あの場所にいたのね?」

 私の言葉にヤツは無造作に頷く。

 そうだったのだ、やはり居たのか。

 休憩時間を終えて売り場に戻り、そのままで終業時間まで勤務した私が、上がりますと方々に挨拶をして売り場をあとにした。それからバックヤードの階段を上りながら開いた携帯電話に、メールがきていたのだ。

 送り主は夫、桑谷彰人。