私は黙って闇の中を見つめる。そのうちに、暗がりの中から何かがゆらりと動くような気配がした。

 パタンと、さっきよりはハッキリとした足音が聞こえる。

 駐車場に3つしかない外灯に照らされて、足首から姿が浮かび上がる。それは運動靴、それから黒いスラックスとうつして、やがて数時間前に目の前にいた男の全身へと変わった。

「・・・全く、あんたらは邪魔ばっかりしてくれたよな」

 ヤツが喋った。その声は淡々としていて、事実だけを述べている感じだった。

 蜘蛛だと呼ばれている男は面白くなさそうな表情をして、私たちを交互に眺めている。荷物はもっておらず、両手はだらりと体の横にたらしていて、緊張などはしていないようだった。

 怒りの気配もない。それはそれで、十分不気味だった。

「ご苦労だなあ、お前。わざわざここまでついてきたのか」

 桑谷さんが呆れた声でそう言うと、蜘蛛がふんと鼻をならした。

「商売の邪魔をされたままじゃあ帰れないだろ。あんたら、どこに隠したんだ、あの女?」

「あらつまり、歌手が目的だったのね」

「・・・」

 私が思わず零した言葉に、ヤツは更に表情を消して黙った。

 冷静だと思ってたのは私の間違いね、とこっそり心の中で思う。

 ヤツは、怒りのあまり冷静さを失っているみたいだわ。それかただ単に・・・。私は夜の駐車場につったつ男を眺めて思った。

 ただ単に、バカなのかもね。簡単に情報を漏らすとは。

 隣から夫が私の握った手に力を込める。

「まり、挑発するのはやめてくれ」