ん?と振り返った彼に、滝本さんは手のひらを上にみせてゆっくりと振った。

「・・・んだよ」

「今夜の分の請求だ。ガソリン代、人件費、それから相談料」

 忘れてなかったのか、そう小さく呟いて、桑谷さんは嫌そうに言った。

「知人価格で頼む」

「じゃ、3倍だな」

「ああ!?」

 滝本さんの言葉に逆上した桑谷さんが噛み付くのを背中に聞きながら、私は疲れた足で階段を降りた。

 あーあ・・・なんて夜だったのかしら。本当、雅坊を実家泊まりにしていてよかったわ。首をまわすとコキコキと音がなる。

 倒れたりで足が痛かった。帰ってお風呂に入り、マッサージをしなくっちゃあ──────────


 ところが、そうは問屋がおろさなかったのだ。

 私達は飯田さんの車とは別に自宅方面へと車をまわし、契約している駐車場からぶらぶらと歩いて帰る途中だった。

 空にはちらほらと星空。風はあまりなく、隣を歩いている桑谷さんがするりと手を握ってくる。あら、どうしたの───────私は顔を上げて、斜め上にある彼の顔を見ようとして、ハッとした。

 そこにあったのは微笑している夫の和やかな顔ではなく、かなり険しい表情だったからだ。

「どう───────」

「尾けられてる」

 言いかけた言葉は、彼の低くて静かな呟きにかき消される。私は驚いて、一瞬足を止めてしまった。