「あなたにも、何かあるはずです。でなければわざわざ危険を増やして巻き込みはしない。最近身辺で何か変わったことはありませんでしたか?」

 歌手がぴたっと動きを止めた。まだマネージャーを襲おうとしているような凶暴な顔をしていたけれど、一応真剣に考え出したらしい。

 そして、ぱっと眉間の皺をといた。

「・・・あの」

「はい、どうぞ。細かいことでも、実は大事なことという場合が多いんですよ」

 躊躇したのを滝本さんにそういわれ、歌手は頷いた。

「・・・ストーカーがいたんです。ですが、5日くらい前からいなくなりました」

 桑谷さんの隣で、飯田さんが微かに頷いたのが視界に入った。誉田さんはぽかんとした顔。桑谷さんは飄々とした表情のままで新井さんの肩を叩いている。

 滝本さんが首を傾げた。

「いなくなった?あなたについていたストーカーが?・・・それはどうして判りましたか?」

 歌手のミレイさんは少し後ろに下がって深呼吸をした。眉間に皺を寄せて考え込むような表情をしている。

「その男の人は私から隠れようとはしていなかったんです。露骨についてくる。姿を見せたままの男。だけど、手は出されないし郵便物を開けられたりなどの迷惑行為はありませんでした。最初は気味が悪くて警察にも相談しましたけれど、そのうちに慣れてしまって・・・」

「むしろ、心地よくなった?」

 滝本の言葉に、少しばつが悪そうな顔で、歌手は頷いた。

「見守られているような・・・気分に。だけど、先週からその人の姿が消えました。うまく隠れているとは思いません。私も一生懸命探しましたので」