「しゃ・・・借金です。僕は・・・その・・・」

「借金!?借金があるの、新井君?」

 歌手が叫ぶ。それは驚いているというより絶望的な表現で、もしかしたらこの青年は同じような問題で彼女に迷惑をかけたことがあるのではないだろうか、と思うほどだった。

 滝本さんがまた歌手をマネージャーからゆっくりと引き離す。桑谷さんが首を傾げた。

「それで?」

 マネージャーの新井さんはもごもごと口の中で言葉を言いかけては消して、それでも何とか言った。

「ぼ、僕は、お酒にのまれるんです。それで、一度詐欺にひっかかったこともあって・・・今度のは、また酔っている時に保証人の判子を押してしまって─────」

「いくらですか?」

「え?」

 滝本さんの質問に、新井さんは怪訝な顔した。それから気まずい表情でぼそぼそと答える。

「・・・800万です」

「新井君!!」

 歌手が怒髪天きたって顔で怒鳴った。彼はびくっと体を縮こませる。

 あらまあ、だわ。私はため息をついた。お酒が好きで泥酔し、その間に詐欺にあって借金を作らされたってことなんだろう。よくあるけど、何回もひっかかるのはバカに違いない。

 同情できないわ。そこにいる全員がそう思っていたようだった。

 青ざめた顔で塞ぎこんでしまった新井さんに掴みかかろうとする歌手を自分の体で押しとめたまま、滝本さんが振り向いて、歌手に静かに聞いた。

「それで、あなたは?」

「はい!?」

 苦笑したけれど、眼鏡の奥の瞳は相変わらず細めたまま。実に柔和で読めない表情のまま、滝本さんが彼女に言った。