電話が切れた後、兄の部屋をノックした。

しばらくすると、扉がゆっくりと開いた。

兄はさっきまで寝ていたみたいな顔で立っている。

「なんだ、ユイカか。今帰ったの?」

兄は頭をくしゃくしゃしながら、大きなあくびをした。

「寝てたの?」

「寝てちゃ悪いか。」

この無表情で見下ろした顔、苦手だ。

「今お母さんから電話あってさ、あゆみおばちゃん今日調子悪くて病院連れていってたって。お母さんまだ出先だって。」

「まだ帰ってなかったのか。」

「そうよ。」

兄は何時間寝てたんだろう。

「それはそうと、お兄ちゃん、おばちゃんにいつ会いにいくの?」

「俺も忙しいんだ。」

何が忙しいのよ!寝てばっかのくせに!

その言い方に、思わずイラッとした。

「いいわ。お兄ちゃんがいかないなら私先に会いに行ってくる。おばちゃんの顔見ないと心配だから。」

兄は、珍しく私が怒った顔をしているのに驚いたのか、少し慌てて言った。

「いつ行くんだよ。」

「今週末にでも行ってくるわ。」

「んじゃ、俺も一緒に行くよ。」

何よそれ。

忙しいんじゃなかったっけ?

だけど、兄と一緒に行けることにホッとしている自分もいた。

「わかったわ。」

そう言うと、兄の部屋の扉をゆっくりと閉めた。

「ふぅ。」

世話の焼ける兄だこと。

以前はこんなことなかったのに。

いつも頼りになる優しい兄だった。

マサキに意地悪されたときも、いつだって私のすぐ前に立って私を導いてくれてたのに。

マサキか・・・。

しばらく、マサキのこと考えないくらい忙しくしてたから、久しぶりに思い出したような気がする。