「全然覚えてないや。鞄持たせて後ろから歩いてる姿しかわかんない。男か女かもちゃんと見てない。」

「あはは、きっと男だったんだよ。」

「そうだね。髪の長い男だったのかもしれないよね。」

ブランコのきしむ音を聞きながら、空を見上げた。

今日は月がきれい。あと少しで満月になりそうなほどまんまるに見えた。

「マサキ先輩は、ユイカの気持ちには全く気づいてないの?」

「多分ね。いつもかわいげないことばっか私も言ってるし、マサキも私のこと邪険に扱うもの。」

「伝えないの?自分の気持ち。」

「今更だよ。言えない。言ったらもう二度と顔合わせられないし。」

「そうかなぁ。わたしだったら言っちゃうかも。」

「うそ!マドカこそ絶対自分から告白なんかできないタイプだと思ってた。」

思わず目を見開いてマドカの方を見た。

マドカはふふんと微笑んで、ブランコをゆっくり漕いでる。

でも少しだけ目が寂しそうに見えた。

「思い切って告白したとして、もし振られちゃったらどうするの?」

「振られたら、次にかっこいい男子好きになればいいじゃん。」

「そんな簡単に次なんて見つからないよ。見つからないからずっと好きなんだって。」

「違うよ。その人だけ見てるから、他が見えないのよ。」

そうはっきりと言い放ったマドカの横顔が少し大人びて見えた。

「なんか、名言だね。」

「そう?だって本当にそう思うもん。」

後悔しない生き方って、こういう風に考えられる人がの生き方かもしれない。

「じゃ、もしマサキに振られたら、私にもまた新しく好きな人見つかると思う?」

マドカはブランコからポンと飛んで着地した。

「見つかると思う?じゃなくて見つけるのよ。」

月明かりでマドカの顔の輪郭だけ白く光って見えた。

「見つける、か。」

マドカは頷いて笑った。

「そろそろ帰ろうか。もう大丈夫だよ、私。」

多分ね。

「また泣きたくなったらいつでも電話かけて!」

マドカは私の頭をぽんぽんって叩いた。

「マドカが私の彼氏だったらいうことないのにね。」

「あはは、何馬鹿なこと言ってんの。」

こないだも兄達を見てて思ったけど、親友と恋人はなんだか似てる。

兄にとってのマサキ、私にとってはマドカだと思った。