あの日以来、少しだけ兄は元気になったように見えた。

ご飯も以前のようにたくさん食べれるようになったし、時々笑うようにもなった。

一時的なものだったのかもしれない。


「よかったじゃん!」

マドカは我が事のように喜んだ。

「うん、まぁね。マサキってある意味偉大だね。」

いつものカフェで抹茶ミルクをすすりながら言った。

「さすがマサキ先輩だよ。なんかいつも元気いっぱいだもんね。きっとその元気は誰かにわけるためにあるんじゃない?」

「元気っていうかノー天気だと思うけどね。」

そう言いながら、マサキのいつも変わらない笑顔を思い出してドキドキしていた。

「マサキ先輩ってさ、彼女いるの?」

マドカが少し小声で聞いてきた。

いると思う。多分。

そう言い掛けて、言葉を飲み込んだ。

「知らない。」

「そう、ユイカも知らないんだ。」

「そんな話マサキともお兄ちゃんともしないもん。っていうか教えてくれないし。」

兄は中学の時、ちらっと教えてくれたけどね。

「うちのお姉ちゃんに聞いてもわかんないって言われた。」

「ふぅん。」

「ひょっとしたら付き合ってないのかも?ユイカ、見込みあるじゃん!」

マドカは大きく目を見開いて、私のほっぺたを両手で挟んでぐにぐにした。

「もう、やめてってば。」

私は笑いながら、そんなマドカの両手を払いのけた。

「あ。」

マドカが私の背後を指刺した。