母は、微妙な笑みを浮かべながら、イスから立ち上がると、自分のお皿をキッチンに持って行った。

私達に背を向けたまま答える。

「入院後、治療が始まってすぐは薬の副作用がきつくて、かなり辛そうだったけど、今は落ち着いてるわ。あゆみおばちゃん、すごくがんばってる。」

「そう。」

「ユイカも会ってきたら?」

「そうだね。また時間見つけて会いにいく。」

そう言いながらも正直会うのが恐いと思ってる自分がいた。

以前の元気なあゆみおばちゃんが、別人のように変わり果ててしまってたらどうしようって・・・。

自分はそんなあゆみおばちゃんの前で、普段通りお話ができるんだろうかって。

兄は、平気なんだろうか。

だけど、あんなに自分を勇気づけてくれたおばちゃんに今こそ恩返しができるような気もしていた。

兄と一緒に行ってみようか。

「お兄ちゃん、あゆみおばちゃんち行く時一緒に行ってもいい?」

思い切って尋ねてみた。

兄はテレビに視線を向けたまま、「ああ、いいよ。」とだけ答えた。

お兄ちゃんと一緒なら、幾分安心な気がした。

「あ、そうだ。」

母は急に思い出したかのように、キッチンから振り返った。

「ユイカ、あゆみおばちゃんにかわいい犬のモールプレゼントしたのね。」

「え?ああ、うん。」

「おばちゃん、入院先にもこれは絶対持って行くって持って行ってね。自分のベッドの上のカーテンレールのところにずっとかけてるの。すごく気に入ってるみたいよ。」

そうだったんだ。

あの犬のモール渡した時、うっすら涙を浮かべていたおばちゃんの姿が思い出された。

胸の奥の方がきゅっとする。

私にはあれくらいのことしかできなかったのに、そんなに喜んでくれてたんだ。

単純に嬉しいのとは違う、なぜだか苦しいに似た気持ちになっていた。