玄関のチャイムを押した。

『はい。』

母の声がした。

「私。・・・とマサキも一緒。」

『あら。』

その『あら。』の続きをどうか言わないでほしいと祈りながら、玄関の扉に手をかけた、

手をかけた途端ふわっと扉が開いた。

「おかえりー。マサキくんいらっしゃい。珍しいわね、二人一緒だなんて。」

母は、私をチラッと見て、意味深な顔をして微笑んだ。

やめろっての。

「ただいま。偶然駅で会ったの。お兄ちゃんに用事だって。」

くだらないことを言いかねない母を置いて、いつもより踏みしめながら階段を上って行った。

そして、兄の部屋の扉をトントンと叩く。

「あーい。」

間延びした兄の声。

「マサキが来たよ。」

閉められた扉の向こうにいる兄に言った。

「マサキくん、どうぞ入ってちょうだい。よかったら晩御飯も一緒に食べてって。大したものはないけど。」

「ありがとうございます。でも急だしお構いなく。マサキとちょっと外散歩してきます。話したいこともあるんで。」

「そう?シュンタ、最近元気ないの。マサキくんだけが頼りだわ。よろしくね。」

母はマサキにペコリと頭を下げた。

兄の部屋の扉がゆっくりと開いた。

寝ていたのか、兄の髪は寝癖がついたように跳ねていた。

兄はそのまま階段をゆっくり降りていった。

「やあ、シュンタ。」

マサキの表情はわずかに緊張していた。

きっとなかなか連絡がつかなかったこともあるのかもしれない。