「高校は楽しいか?」

頭上でマサキの声がする。

マサキの胸のボタンを見つめながら答える。

「うん。マドカもいるし、卓球部も適当だし、それなりにね。」

「そっか。」

「今のうち楽しんどけ。」

あゆみおばちゃんみたいなこと言うなと思う。

「3年になったら、そんな悠長なことばっか言ってられないからな。」

そうだよね。

だから私も焦ってた。

だけど、今を楽しんどけばいずれ答えが見つかるんだよね。おばちゃんの受け売りだけど。

「お兄ちゃんと会ったら、何話すの?」

元気のないお兄ちゃんと、マサキは一体何を話そうと思ってるんだろ。

「そうだな。彼女の話とかかな。」

胸がきゅーんと痛くなった。

「お兄ちゃんの?」

わかってて、敢えて尋ねる。

「シュンタの彼女かぁ。俺あんま知らないんだよね。でも、今は彼女ができたかもしれないしさ。そこんとこ詰めてくるわ。」

「そんな話しにわざわざ会いに来るわけ?」

んなわけないと思いながら、突っ込んでみる。

マサキは彼女さんとはどうなの?うまくいってる?

もしかして、もう別れたとか?

すごく聞きたいことだけど、聞く勇気は全くなかった。

電車はゆっくりと私達の降り立つ駅に到着した。

開いた扉から出て行く人の流れに身を任せながら、外に出た。

「あー、すげー満員電車だったな。」

マサキは体操着が入った巾着をひょいと肩にかけ直した。

「今日はいつもより混んでたみたい。」

「そうだな。やっぱ金曜だからか?」

でも、今日の電車は混んでようが混んでまいが、とても居心地のいい乗車時間だったことは確かだ。

全然苦痛じゃなかった。

マサキの胸の厚みや頭上にかかるマサキの息が私の胸の奥に染み渡っていく。

一緒に帰るのなんて、初めてだよな。

改札を出て、二人並んで歩きながら、少しだけにやけた。

その時、マサキはふいに尋ねた。

「お前もそろそろ好きな男でもできたか?」

ドキン

体中の血液が大きく波打った。

どうして急にそんな変な話ふるんだろ。

私になんて答えてほしいんだろ。

嘘のつけない人間はこういう時とても困る。