正面よりも真横に並んでいる方が落ち着く。

顔が直接見えないからだろうか。

「縮んでないわよ。マサキの身長が伸びたんじゃない?」

妙に冷静に答えていた。

「そうそう、俺また身長伸びたんだよね。」

「ほら、やっぱり。」

「高校3年にもなってまだ伸びるってさ、よっぽど頭に栄養行ってないんだろな。」

「なにそれ。」

「体でかくするのに栄養が吸い取られてるってこと。」

思わずくすっと笑った。

電車が大きな音を立てて、ホームに入ってきた。

マサキが少し私の前に出て、電車に乗り込む。

人混みに圧倒されながら、必死にマサキの背中を追いかけた。

車内の奧に進む途中で、マサキは私を振り返る。

小学生の頃、兄達が私を勝手に鬼にして始まった鬼ごっこ。

逃げて行く二人を必死に追いかけて、追いつかなくて泣きそうになっていたら、マサキが振り返って「早く来いよ!」って笑いながら叫んでた。

私は鬼なのよ!って思いながらも、マサキがそうやって少し私の足に合わせてくれていたんだって、今はわかる。

今は、どんな気持ちで振り返ってくれたのかはわからないけど、そんなマサキの姿が当時と重なった。

私しか知らないマサキがすぐ目の前にいるってことが単純に嬉しかった。

「こっち来いよ。少しすきまがある。」

マサキは自分のすぐ前を指刺している。

その隙間目がけて、必死に人の波をくぐり抜けた。

マサキの指刺した空間は、とても小さくて、マサキの顔を見上げられないほど、マサキの制服のボタンが私の目の前に接近していた。

電車がゆっくりと動き出す。

思わずよろけたら、マサキが私の腕を掴んで支えてくれた。

「ちっちゃいと、満員電車はきっついな。」

頭の上でマサキの声がする。

マサキに一瞬掴まれた腕と、かすかに頭上にかかるマサキの息が私の体を硬直させていた。

こんなにも接近してるのに、ドキドキする以上になぜかとても安心できた。