「人って、見ただけじゃわかんないこといっぱいあるよね。」

マドカがポツリと言った。

「そうだね。」

学生達が駅に向かって、笑いながら走って行く。

きっとその笑顔の裏で誰にも言えないような何かを抱えてるのかもしれない。

「お前ら、珍しく遅いじゃん。」

その時、とても聞き慣れたそしてすごく聞きたかった声が背後から聞こえた。

きっと、世界中の誰よりも早く振り返ったんじゃないかというくらいのスピードで後ろを向いた。

「おっす。久しぶり。」

日に焼けたマサキが白い歯を見せて笑っていた。

「あ。」

こないだはありがとうって、本当は言いたかった。

「誰だよ。お前も隅におけねーな。」

マサキのすぐ横にいたおそらくサッカー部であろう男子達数人が、マサキを冷やかした。

「俺の知り合いの妹。」

マサキは「うっせー」とか言いながら、隣で冷やかす友達に言った。

俺の知り合い・・・

親友でもなく、友達すらでもない、兄のことだ。

さーっと血の気が引いていく。

思わず体がよろけた。

「大丈夫?」

マドカが私の体をすばやく支えてくれた。

やっぱり。

そうなんだ。

「じゃ、な。」

マサキは私の肩をポンポンと叩いて、手をひらひらさせながら友達と追い抜いて行った。

何も言えなかった。

「ユイカ、顔色悪いよ。マサキ先輩と何かあった?」

しばらく呆然とマサキを見送っていた。

楽しげに駅に向かうマサキ達を。