空はまだ夕暮れの「ゆ」の字も訪れていないくらい爽やかな青い色をしていた。

マドカはいつもよりもゆっくりと歩きながら話し始めた。

「こないだ、ほら、先週だったか、体育の時間に私が転んで保健室に行ったじゃない?あの時。保健室に山崎ハルトもベッドに座ってて。そういえば、体育の授業休んでたなぁっなんて思い出したの。保健の先生に足の手当してもらってたら、ハルトが急に小さなバッグから細いペンみたいなの取り出して、自分の腕に挿したの。うそでしょ?って感じで、私もあんぐり口開けちゃった。先生にほらほら見てって思わず言ったら、先生が「うん、そうなの。」って穏やかに笑って頷いて。ハルトもそのペンを片づけながら「うん。」なんて私の方見て、少し恥ずかしそうに笑ってるから、訳わかんなくって「何なの?」ってハルトに尋ねたの。」

ペンを自分の腕に挿してる?

何それ。

そんなの見たことないし。

「それで?」

思わず、マドカの腕を掴んで続きを急かした。

「ハルトと先生の話では、ハルトは小さい頃から遺伝性の病気で糖尿病なんだって。その治療でインスリンとか言うものを定期的に自分の体に入れないといけないらしくて、そのインスリンの注射が、そのペンだったってわけ。でも、自分で自分の体に注射打つなんて、すごい恐いこと平気な顔でしてるんだもん。恐くないの?って聞いたら、「昔からやってるし別に痛くもないから平気」なんだって。最近、そのインスリンの副作用とかで、体がだるくてしんどい時が多くなってきたらしくて、それで、週に一回はかかりつけのお医者に通ってるみたいだよ。結構大変だよね。でも、基本その注射をしてれば普通に生活できるから大丈夫なんだって。いつもクールであまり感情表に出さないタイプだから、まさかそんな病気抱えてるなんて思いもしなかったわ。それからちょっとハルトを見る目が変わっちゃった。」

何も言葉が出なかった。

山崎ハルトの秘密。

知ってしまった。

いつもみたいな悪態つけなくなっちゃうじゃない。

そんな話聞いたら。