「私ね、お兄ちゃんとマサキにはずっと仲良くしててもらいたいの。二人が仲良くしてるのを見てるのが昔から大好きだったから。」

おばちゃんは私の両手から自分の手をそっと外すと、私の頭をゆっくりと撫でた。

「お兄ちゃんの大切なお友達はマサキ君っていうのね。」

私はおばちゃんの目を見つめながら頷いた。

「素敵なことね。そう思えるユイカはとっても素敵な女の子だわ。」

なぜだかそれだけで泣きそうになった。

おばちゃんのやせ細った冷たい手が何度も私の頭を撫でている。

でもおばちゃんの目は、いつもと変わらないとてもきれいで強い光を放っていた。

「ひょっとして、ユイカの好きな男の子って、そのマサキ君?」

おばちゃんはふと手を止めて、私の顔をのぞき込んだ。

いつもなら、はぐらかすのに、その時は自分でも驚くほど素直に頷いていた。

「そうだったのね。だから余計に心配だったの。」

おばちゃんはそう言うと、優しく微笑んだ。

「きっと大丈夫だわ。お兄ちゃんの話聞いててもマサキ君はとてもいい性格だし、優しいし強い人。お兄ちゃんにとっても必要な友達だと思う。ユイカにとってもね。」

「もう!」

思わず、恥ずかしくなっておばちゃんから目をそらした。

「ユイカも思い切って踏み出してみたら?その一歩は、きっとユイカのこれからの強さになっていくよ。」

「思い切って踏み出すって、マサキに自分の気持ち伝えろってこと?」

「別にそこまで具体的なことは言ってないわよ。」

おばちゃんはいたずらっぽく笑った。

「そう思うなら、きっとそれがユイカの一歩なんだと思うわ。いいんじゃない、伝えてみて。」

「どういう風に言えばいいの?」

おばちゃんの指標に従ったらきっと間違いないと思って身を乗り出した。

「それは、自分でよく考えて。」

でも、あっさりとシャッターを降ろされた。

そりゃそうだよね。

教えてもらえないかとあきらめたところで、おばちゃんは小さな声でそっとつぶやいた。

「嘘偽りなく、正直に自分の気持ちを伝えればいいわ。それから、」

おばちゃんはゆっくりと続けた。

「自分に自信を持って。ありのままの自分を信じて。」

自分を信じること。

なかなかできそうでできないこと。

兄も私も。

きっとこれが私達の壁なんだ。

それを超えることが大きな一歩に繋がるのかもしれない。

ユラユラ揺れる暢気な子犬達を眺めながら思った。