兄はじっと黙っていた。

「ミキはなんて答えたんだよ。」

マサキは、兄の肩をドンと押した。

兄の体は一瞬よろけていた。

「シュンタ、何とか言えよ!」

マサキはようやく声を荒げた。

「なんだよ、それ。シュンタがミキのこと好きかもしれないっていうのは俺も正直気になってた。だから、俺も知らず知らずのうちにお前を傷つけてることがあったかもしれない。だけどさ、それは反則だろ?俺達は一体なんだったんだよ。」

「ごめん。」

兄はそう言うとしゃがみ込んだ。

「お前にわかるか?今の俺の気持ち。シュンタとミキの両方を失ったんだぞ。信じてた2人に。一番信じてた2人に!」

兄に対してこんなに声を荒げるマサキは見たことがなかった。

なんだかわからないけど、涙が頬を伝ってる。

だめだ、こんな場所で泣いてたら、ここにいることがばれちゃう。

必死に目を押さえて嗚咽を押し殺した。

なんていうんだろう。

こんなのってないよ。

どうしてこうなっちゃうの?

小学生の頃3人で遊んだ記憶が頭の奧にふぅーっと流れて消えていった。

あめ玉を差し出した、マサキの手の平。

心配そうな目。

それを見守る穏やかな兄の姿。

この思い出が全部消えてしまうような気がした。

私は静かに立ち上がると、静かにその場を離れた。

ここにはいられない。

やっぱりいちゃいけなかったんだ。

暗闇から明かりがこぼれる方へ歩き出した。