兄が大きく息を吐いた。

「俺、マサキに内緒で何度かミキと会ってた。」

え?どういうこと?

マサキは何も言わなかった。

ただ静かに聞いていた。

「いつだったかな、高3になってすぐの頃か。久しぶりで3人で会ったよな。その時、やっぱミキのこと好きだってあらためて思った。だから、お前には悪いって思ったけど、ミキに連絡とったんだ。最初はたわいもない理由で呼び出して。時々、図書館で一緒に勉強したりもした。」

「なんだよそれ。」

マサキがようやく口を開いた。

今、マサキはどんな顔して兄の話を聞いてるんだろう。

茂みの奧に見える2人の影がちらちらと動くだけで、表情まではわからなかった。

「二人で会ってる時はすげー楽しかったし、だめだって思いながらも、どんどん思いが強くなっていった。」

私の呼吸音さえも聞こえてしまうんじゃないくらいの静寂。

風も止んで、ただ暗闇だけがしんしんと降り注いでいた。

「マサキのことは大事だったけど、でも、ミキのことも失いたくなかった。調子のいいこと言ってんのはわかってる。俺がサイテーなのもわかってる。」

兄は「ふぅ」と長く息を吐いた。

「先月、ミキに自分の思いを伝えたんだ。」

マサキの喉の奥がゴクリと鳴ったのが聞こえた。

「嘘だろ?」

兄は、ずっとマサキと一緒だったのに。

大好きな友達だったのに。

どうして?

ひどいよ。

「で、ミキはなんて返したんだ?」

マサキの声が少し震えているようだった。

それが怒りなのか、悲しみから来るものなのかわからなかった。