「お前、高校生になってちょっと背え伸びた？」

その人は、くすくす笑いながら、過去、背の順で一番前にしかなったことのない私を見下ろしてそう言った。

「全ての栄養が脳にいってるだけよ。背なんて後からいくらでも伸びるわ。」

私はプイと横を向いて、その人の前をすり抜け階段を駆け上った。

「脳に栄養いってて、俺と同じ高校かよ。たいしたことねぇの、その栄養。」

背後に間延びしたその人の声が響いていた。


４月。

私、河野ユイカは、その人、田辺マサキと同じ高校に入学した。

マサキは、私の兄、河野シュンタの親友だ。

かれこれ、私たち兄妹とは小学生からの付き合いになる。

今、兄とマサキは高３だ。

昔から頭の良かった兄は、マサキと私とは違う高校に通っている。

隣の市にある有名進学高校。

私も両親に兄と同じ高校を薦められたんだけどね。

色々な事情っていうか、結局は自分の意思で、マサキと同じ高校に通っていた。