「え、瑛美」
「……っ、ごめん、話聞いちゃって」
恐る恐る声をかけると、瑛美はそれだけ言ってその場から去ってしまった。
どうしよう。このままじゃ、ダメだ。
離れていく瑛美の背中と、誤解を解こうとして避けられた千の背中が重なって見えた。
瑛美と芹沢には、私のような思いをしてほしくない。
すれ違うことの怖さを、感じてほしくない。
「芹沢」
私は芹沢の背中を押した。
芹沢は二歩前に出て、驚いた表情で私を見る。
「瑛美をよろしくね」
私が芹沢にこんなことを頼むのはおかしいのかもしれない。
でも、芹沢は瑛美の彼氏なんだから。
今、瑛美を追いかけるのは私じゃない。
芹沢じゃなきゃ、意味がないんだ。