「弁解はあるか?」

「特にないねー」

全てが白で統一された部屋、病院だ。
包帯でぐるぐる巻きにされたみすゞと太宰は全治三週間と申告された。死んでいないだけでもラッキーだろう。

携帯のGPSで太宰達を見つけた中島は酷く狼狽えすぐ病院に直行した。

岩に当たらず穏やかな海流に流されなんとか一命はとりとめた。互いに互いの手を離さず沖に着いた様。

どこまで流されたか分からなかったがさほど離れていなかった様だ、お陰で中島も早く到着できすぐ治療も出来た。

「金子がお前を怒るなと言っていたが、やっぱり先に逝ったほうが良かったな」

「ワタシは自殺も良いがみすゞちゃんと心中したいのだよ」

噛み合っていない。
中島は思った、死んでも恐らく化けて出てくるだろうと。

「みすゞちゃんの容態は?」

「ぐっすり眠ってるよ、母親がついてる」

病院にみすゞが担ぎ込まれたと聞いて母は失神しそうになったと。特に理由を聴かなかった事に中島は酷く安堵した。

何から説明すれば良いか分からないし、全て太宰の責任だと一纏めすれば(太宰の事は知ったことではないが)尻拭いをするのは結局こちら側だ。

「ちゃんと話せよ、娘さんを殺そうとしましたって」

「裁判沙汰になりそうで怖い」

言っている場合か、本当なら警察沙汰なのだが、みすゞは太宰を必死に庇った。厄介な事になりそうだと中島は首を竦めた。

「海に落ちた事は認めます。ですが、太宰さんは足を踏み外した私を助けようとしたんです、間違いありません」

太宰治という人間を知らない人が聞けば優しい青年と好印象を持たれるだろう。
しかし、
ストーキングに心中愛好家といった性癖を暴露されればみすゞの話などあっという間に覆される。

「優しい人です。私の衝撃を少しでも減らす為に太宰さんは受け身を取らず、海面に直接当たりに行きました

「無理心中と言われればそうなりますが私はこの通りぴんぴんしてます、太宰さんだけが悪い訳ではありません

「ですからお願いです、太宰さんを

太宰を誉め倒すみすゞを見て中島は胸がキリキリした。沖で倒れている二人を見たときは肝を冷やしたが、同時に憎悪も沸き上がった。
手をしっかり握っている二人を見て。

「太宰くん、大丈夫かい!」

勢いよく開かれた扉、廊下を走るなとナースが叫んでいるのが遠くから聞こえる。

「子規さん、迷惑かけたね」

現れたのは太宰と同じくらいの青年、髪はボサボサで一生懸命息を整えようとしている。スーツをキッチリ着ている様だが上に羽織っているコートは床を引きずっていてだらしない。

「海に落ちたと聞いた時は身投げかなと思ったが、女の子と共に落ちたというのは本当かい!」

情報が回るのは早い、流したのは恐らく中島だと太宰は推測する。

「正岡さん、そろそろコイツ柱に括りつけて動けなくしたほうがいいですよ」

『正岡 子規』
太宰の同僚
特技、推理ゲーム

「社長がお怒りなんだ、今すぐ謝りに行こう!」

ベッドで横になっている太宰の身体を正岡は起こそうと頑張る。

「子規さん、ワタシ怪我人」