「デートをしよう!」
「帰ってください!!」
学生や社会人にとっての休日、天気が良く絶好の休日日和。バスに乗ってデパートに行って一階にあるパンケーキの美味しい店にでも行こうか。
予定は狂ってしまったが
「雲一つ無い晴天、絶好の心中日和だね」
心中に天気もなにも関係ないと思うが、
デレデレの締まりの無い顔でみすゞを見つめる。
「空をバックに飛び降り自殺なんてどうかな、とてもロマンチックだよ」
「心中にロマンチックなんてあるんですか?」
みすゞはふと気づく。
太宰はどうやって自分がこのタイミングで家を出るのに待ち伏せたのか。
今日出掛ける事は昨日の時点で考えてもいなかった、誰にも話していない。
「一緒にドライブなんてどうかな、大丈夫、変な事はしないさ。ただ君にワタシの事を知ってほしくてね」
「家に盗聴機を仕掛けているんですか?」
・・・・・・・・
「せめて反応してください!不安で夜も眠れません!!」
太宰の誘いに耳を傾けていなかったみすゞは盗聴について問いただす。
答えは無言、無言は肯定と見なすと言う事なのだろうか。
気を取り直し、もう一度口説く。
「分厚いホットケーキを三枚重ね、メープルシロップを泉の様に流す」
ぴくり、みすゞの耳がその甘言に傾く。
「バターはケーキの熱で瞬く間に溶けてしまうだろう、一口食べれば魅惑の味、ナイフもフォークも止まらないだろうね」
騙されるなと、みすゞの危険信号が囁いている。ストーカーの口八丁に乗せられれば二度と日の目を拝む事は出来まい。
しかし、
「紅茶もつきますか?」
「勿論ですよプリンセス」
人の良い顔を浮かべる太宰。
そこまで悪い人ではないのかも知れないと騙されるみすゞ。
ストーカーを行う時点で相手の信念は相当ねじ曲がっている。素直さは時に残酷だ。
「助手席に座ってくれ、車で事故した時傍にいてくれたら安心する」
「車に対してトラウマを植えつけないでください!」
後ずさるみすゞに冗談だと笑う。
警戒しながら車に乗り込む。
運転中の太宰の顔を盗み見る。黙っていればかなりの美形、時折見せる狂気を除く微笑みは多くの女性を虜にするだろう。
口説き文句や手際のよさ、太宰は女性経験が豊富なのだろう。
何となく、顔も知らぬ人達に嫉妬する。
「誘拐ではないのだから、顔を強張らせないでくれ。良心が痛んで仕方ない」
みすゞが本気で嫌がる事はしないらしい。
自分の手を顔に滑らせる。
「そんな顔をしていましたか?」
「あぁ、さながら如何に君を口説き落とそうか悩むワタシの様だよ」
「例えが分かりにくいです」
どんな顔か想像も出来ない。
太宰は可笑しそうにくつくつ笑う。自然にみすゞの表情も柔らかくなる。
そこで、思い出した様に質問する。
「太宰さん、貴方はどうして心中を求めるの?」
「みすゞちゃん、着いたよ」
車を走らせ十五分、みすゞは弾かれたように前方を見渡す。
「・・・・・・・海?」
そう、海。
天気が良く風も穏やか、水面は太陽と空を反射する大きな鏡の様に輝いている。
近くに島など見られない、水平線だ。
「こっちだよ」
肩を抱かれ、丘に向かって進んでいく。歩きながらも海を見つめる、魅せられた様だ。お陰で何度か足を掬われた。
キラキラと輝いている部分は青を思わせる宝石、ラピスラズリによく似ている。
“絵にも書けない美しさ”人が例えこの情景を写真に収めても肉眼で見た美しさには到底及ばないだろう。
「あぁ、やっと着いた」
太宰は足を止める。
「みすゞちゃんご覧、自然の芸術だ」
「っ!?・・・綺麗」
息を飲み、言葉に詰まった。
在り来たり過ぎた感想だ、もっと表情出来るはずなのに言葉が浮かばない。
みすゞの表情に太宰は満足する。折角外に連れ出したのだ、彼女を驚かせたい。
詩(うた)を作る事に自信があった。桜を見れば春を思う暖かい詩を、蝉の鳴き声を聞けば夏を駆け巡る少年少女の詩を。
なのに浮かばない、この海を表す詩が。
「行こう、みすゞちゃん」
「え、まだ見続けっ!?」
太宰はみすゞの腕を強く引っ張る。丘を下る道ではない、道の無い、その先へと。
とっさの事で頭が回らない、次々と色んな文字が脳内に飛び回る。
落ちる 堕ちる 飛ぶ
回る まわる
浮いてる 落ちる 海
水面 太宰さん どうして
ぶつかる “死ぬ” “心中”
キツく抱き締められ離れられない。
風が槍のごとく身体を突き刺す。走馬灯も駆け巡ってきた。
親愛なるお父様、お母様、見ず知らずの男と先立つ不幸をお許しください。
誰にも届かない遺書を頭の中に残す。
落ちるシーンは短いのに実際は長く感じる
太宰の顔を見る、彼は・・
「 、 」
掠れた声で独り言を浮かべた。みすゞは驚いた。
聞こえたのかな、太宰は微笑んだ。
暗転
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心中した男女は、来世で双子に生まれ変わるらしい。
【飛び降り作戦、成功?】
「帰ってください!!」
学生や社会人にとっての休日、天気が良く絶好の休日日和。バスに乗ってデパートに行って一階にあるパンケーキの美味しい店にでも行こうか。
予定は狂ってしまったが
「雲一つ無い晴天、絶好の心中日和だね」
心中に天気もなにも関係ないと思うが、
デレデレの締まりの無い顔でみすゞを見つめる。
「空をバックに飛び降り自殺なんてどうかな、とてもロマンチックだよ」
「心中にロマンチックなんてあるんですか?」
みすゞはふと気づく。
太宰はどうやって自分がこのタイミングで家を出るのに待ち伏せたのか。
今日出掛ける事は昨日の時点で考えてもいなかった、誰にも話していない。
「一緒にドライブなんてどうかな、大丈夫、変な事はしないさ。ただ君にワタシの事を知ってほしくてね」
「家に盗聴機を仕掛けているんですか?」
・・・・・・・・
「せめて反応してください!不安で夜も眠れません!!」
太宰の誘いに耳を傾けていなかったみすゞは盗聴について問いただす。
答えは無言、無言は肯定と見なすと言う事なのだろうか。
気を取り直し、もう一度口説く。
「分厚いホットケーキを三枚重ね、メープルシロップを泉の様に流す」
ぴくり、みすゞの耳がその甘言に傾く。
「バターはケーキの熱で瞬く間に溶けてしまうだろう、一口食べれば魅惑の味、ナイフもフォークも止まらないだろうね」
騙されるなと、みすゞの危険信号が囁いている。ストーカーの口八丁に乗せられれば二度と日の目を拝む事は出来まい。
しかし、
「紅茶もつきますか?」
「勿論ですよプリンセス」
人の良い顔を浮かべる太宰。
そこまで悪い人ではないのかも知れないと騙されるみすゞ。
ストーカーを行う時点で相手の信念は相当ねじ曲がっている。素直さは時に残酷だ。
「助手席に座ってくれ、車で事故した時傍にいてくれたら安心する」
「車に対してトラウマを植えつけないでください!」
後ずさるみすゞに冗談だと笑う。
警戒しながら車に乗り込む。
運転中の太宰の顔を盗み見る。黙っていればかなりの美形、時折見せる狂気を除く微笑みは多くの女性を虜にするだろう。
口説き文句や手際のよさ、太宰は女性経験が豊富なのだろう。
何となく、顔も知らぬ人達に嫉妬する。
「誘拐ではないのだから、顔を強張らせないでくれ。良心が痛んで仕方ない」
みすゞが本気で嫌がる事はしないらしい。
自分の手を顔に滑らせる。
「そんな顔をしていましたか?」
「あぁ、さながら如何に君を口説き落とそうか悩むワタシの様だよ」
「例えが分かりにくいです」
どんな顔か想像も出来ない。
太宰は可笑しそうにくつくつ笑う。自然にみすゞの表情も柔らかくなる。
そこで、思い出した様に質問する。
「太宰さん、貴方はどうして心中を求めるの?」
「みすゞちゃん、着いたよ」
車を走らせ十五分、みすゞは弾かれたように前方を見渡す。
「・・・・・・・海?」
そう、海。
天気が良く風も穏やか、水面は太陽と空を反射する大きな鏡の様に輝いている。
近くに島など見られない、水平線だ。
「こっちだよ」
肩を抱かれ、丘に向かって進んでいく。歩きながらも海を見つめる、魅せられた様だ。お陰で何度か足を掬われた。
キラキラと輝いている部分は青を思わせる宝石、ラピスラズリによく似ている。
“絵にも書けない美しさ”人が例えこの情景を写真に収めても肉眼で見た美しさには到底及ばないだろう。
「あぁ、やっと着いた」
太宰は足を止める。
「みすゞちゃんご覧、自然の芸術だ」
「っ!?・・・綺麗」
息を飲み、言葉に詰まった。
在り来たり過ぎた感想だ、もっと表情出来るはずなのに言葉が浮かばない。
みすゞの表情に太宰は満足する。折角外に連れ出したのだ、彼女を驚かせたい。
詩(うた)を作る事に自信があった。桜を見れば春を思う暖かい詩を、蝉の鳴き声を聞けば夏を駆け巡る少年少女の詩を。
なのに浮かばない、この海を表す詩が。
「行こう、みすゞちゃん」
「え、まだ見続けっ!?」
太宰はみすゞの腕を強く引っ張る。丘を下る道ではない、道の無い、その先へと。
とっさの事で頭が回らない、次々と色んな文字が脳内に飛び回る。
落ちる 堕ちる 飛ぶ
回る まわる
浮いてる 落ちる 海
水面 太宰さん どうして
ぶつかる “死ぬ” “心中”
キツく抱き締められ離れられない。
風が槍のごとく身体を突き刺す。走馬灯も駆け巡ってきた。
親愛なるお父様、お母様、見ず知らずの男と先立つ不幸をお許しください。
誰にも届かない遺書を頭の中に残す。
落ちるシーンは短いのに実際は長く感じる
太宰の顔を見る、彼は・・
「 、 」
掠れた声で独り言を浮かべた。みすゞは驚いた。
聞こえたのかな、太宰は微笑んだ。
暗転
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心中した男女は、来世で双子に生まれ変わるらしい。
【飛び降り作戦、成功?】