「太宰、どういうつもりだ!!」
時刻は10時を回っており、街は輝かしいネオンで溢れかえっている。
知る人ぞ知る穴場のバーで流れているのは落ち着くゆったりとしたジャズ。
「中島君、落ち着いて。店で大声を出す事はないだろう」
しかし客は太宰一人だけ。
乱暴に開けられたアンティークな扉の音にも驚かなかった。
学校で見せたみすゞに対する穏やかな瞳は人をも震え上がらせる程ギラついていた。
「日頃から自殺だの心中だの言っていたが問題に別段ならなかったから放置していたが・・・」
太宰はニコリと口角を上げる。
中島が何故自分に憤慨しているか、わかっているからだ。
「遂に女子高生まで手をだしたな、しかも俺の生徒に!」
バンッ!
カウンターに置いていたウイスキーががたりと揺れた。
太宰は心外だと肩を竦め中島に話す。
「ワタシはまだ23ではないか、そこまで歳は変わらないよ」
「そういった問題ではないだろう!」
確かに、今では歳の差カップルや夫婦は珍しくない。
相手が太宰なのが問題なのだ。
「諦めてくれ、金子は恐がってるぞ。ストーキングをされる事なんて初めてだ」
「みすゞちゃんの怯えた顔にはゾクゾクしたよ、後興奮した」
すでに手遅れだった。
このまま放置すれば心中が無理心中に進化するかもしれない。
「それに、先日言っただろう。ワタシの好みの女性は大和撫子の様な気品のある人だと」
金子みすゞは美しい。
“立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花”
何時の時代か忘れてしまったが、美しい女性を表した詩を思い出した。
まさに現代の大和撫子だ、金子は。
傷んでいない艶のある黒髪、ビスクドールの様な白い肌、細く小さな手、ガラス細工にも似た小さな身体、触ってしまえば壊れてしまいそうでドキドキする。
黒曜石の様なキラキラした瞳は何度見ても飽きない。
「お前の好みにドンピシャだったから言わなかったんだ、どこで彼女を知った」
「学生を対象とした短歌のコンクール」
中島は思い出した、先月、みすゞがそのコンクールで賞を取った事を。
文系の成績がトップのみすゞは特に短歌や俳句といった歌を造る才能がある。
毎年行われているそれに詩を数点出したところ、審査員の目に留まったようだ。
「詩はとても美しかった、是非お会いしたくてね」
授章式に潜り込んだ太宰が見たのは、スポットライトを浴びたみすゞだった。
恥ずかしいのだろう、顔を赤らめそれでも姿勢良く歩く。一つ一つの動作さえ優雅で繊細だった。
拍手の嵐に困った微笑みを浮かべた。
「直感的に感じたよ、彼女と最期を共にしたいとね」
そこからの流れは早かった、式では高校の名前と受賞した本人の名がフルネームで呼ばれる。聞き逃しても、会場にいる人に聞けばすぐに知れる。
場所を調べ、跡を着けた。傘の名前を見たと言ったのは嘘、会場で見た事を自分だけの秘密にしたかった。
「犯罪スレスレじゃねーか!」
「ギリギリセーフだろう!」
犯罪にセーフもアウトもない。ストーキングは立派な犯罪だ。
「夏目先生に迷惑は掛けるなよ、自分の教え子から犯罪者が出たら卒倒するぞ」
ウイスキーを一気に飲み干し出口へ向かう。中島は続ける。
「お前が本気なのはわかった、精々愛想尽かされない事だな」
「応援してくれるのかい?」
「教え子でなかったらとっくにアタックしてるよ、俺も」
太宰は何か続けて言っている様だったが中島は気にせず自宅へ足を向けた。
「綺麗な薔薇には棘がある・・・」
美しい物ほど障害は多い。
人も同じ。
「刺は俺が作ってやる、精々足掻け」
仕方ないと言わんばかりの顔で、中島はバーにいる男に言葉を紡いだ。
時刻は10時を回っており、街は輝かしいネオンで溢れかえっている。
知る人ぞ知る穴場のバーで流れているのは落ち着くゆったりとしたジャズ。
「中島君、落ち着いて。店で大声を出す事はないだろう」
しかし客は太宰一人だけ。
乱暴に開けられたアンティークな扉の音にも驚かなかった。
学校で見せたみすゞに対する穏やかな瞳は人をも震え上がらせる程ギラついていた。
「日頃から自殺だの心中だの言っていたが問題に別段ならなかったから放置していたが・・・」
太宰はニコリと口角を上げる。
中島が何故自分に憤慨しているか、わかっているからだ。
「遂に女子高生まで手をだしたな、しかも俺の生徒に!」
バンッ!
カウンターに置いていたウイスキーががたりと揺れた。
太宰は心外だと肩を竦め中島に話す。
「ワタシはまだ23ではないか、そこまで歳は変わらないよ」
「そういった問題ではないだろう!」
確かに、今では歳の差カップルや夫婦は珍しくない。
相手が太宰なのが問題なのだ。
「諦めてくれ、金子は恐がってるぞ。ストーキングをされる事なんて初めてだ」
「みすゞちゃんの怯えた顔にはゾクゾクしたよ、後興奮した」
すでに手遅れだった。
このまま放置すれば心中が無理心中に進化するかもしれない。
「それに、先日言っただろう。ワタシの好みの女性は大和撫子の様な気品のある人だと」
金子みすゞは美しい。
“立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花”
何時の時代か忘れてしまったが、美しい女性を表した詩を思い出した。
まさに現代の大和撫子だ、金子は。
傷んでいない艶のある黒髪、ビスクドールの様な白い肌、細く小さな手、ガラス細工にも似た小さな身体、触ってしまえば壊れてしまいそうでドキドキする。
黒曜石の様なキラキラした瞳は何度見ても飽きない。
「お前の好みにドンピシャだったから言わなかったんだ、どこで彼女を知った」
「学生を対象とした短歌のコンクール」
中島は思い出した、先月、みすゞがそのコンクールで賞を取った事を。
文系の成績がトップのみすゞは特に短歌や俳句といった歌を造る才能がある。
毎年行われているそれに詩を数点出したところ、審査員の目に留まったようだ。
「詩はとても美しかった、是非お会いしたくてね」
授章式に潜り込んだ太宰が見たのは、スポットライトを浴びたみすゞだった。
恥ずかしいのだろう、顔を赤らめそれでも姿勢良く歩く。一つ一つの動作さえ優雅で繊細だった。
拍手の嵐に困った微笑みを浮かべた。
「直感的に感じたよ、彼女と最期を共にしたいとね」
そこからの流れは早かった、式では高校の名前と受賞した本人の名がフルネームで呼ばれる。聞き逃しても、会場にいる人に聞けばすぐに知れる。
場所を調べ、跡を着けた。傘の名前を見たと言ったのは嘘、会場で見た事を自分だけの秘密にしたかった。
「犯罪スレスレじゃねーか!」
「ギリギリセーフだろう!」
犯罪にセーフもアウトもない。ストーキングは立派な犯罪だ。
「夏目先生に迷惑は掛けるなよ、自分の教え子から犯罪者が出たら卒倒するぞ」
ウイスキーを一気に飲み干し出口へ向かう。中島は続ける。
「お前が本気なのはわかった、精々愛想尽かされない事だな」
「応援してくれるのかい?」
「教え子でなかったらとっくにアタックしてるよ、俺も」
太宰は何か続けて言っている様だったが中島は気にせず自宅へ足を向けた。
「綺麗な薔薇には棘がある・・・」
美しい物ほど障害は多い。
人も同じ。
「刺は俺が作ってやる、精々足掻け」
仕方ないと言わんばかりの顔で、中島はバーにいる男に言葉を紡いだ。