「おっと」

王子様は再び手のひらに集中した。
元気のいい団子虫が逃走しそうになったのだ。
王子様の手のひらから甲のほうへ行こうと試みているようだ。

「だめだよ、落ちたら怪我しちゃうからね」

まるで小さな子どもにでも言い聞かせるかのように王子様は優しく言って団子虫をそっと手のひらのほうへ誘導すると、「あ、すみませんが」と私に声をかけた。

「すみません、ちょっとこの子たち、持っててもらえます?」

「……はい?」

「あ、俺ちょっとリュックから虫かご出したいんで」

当たり前のように王子様は「はい」と私に手のひらを突き出して、私が手のひらを差し出すのを待っているようだ。

「逃げちゃいますから、早く早く」

私の目の前、数センチのところまで差し出された手のひらは、とても指が長くてきれいだったのだけど、その手のひらの中には、あの有名なジブリ作品に出てくるオウムを小さくしたような黒い物体がもぞもぞと動いている。

恐怖のあまり、もはや声を出すこともできない私の右手首を、王子様は空いている左手で、すっと取ってそして。

まるで宝石でものせるかのように、ともすればロマンチックな仕草で。

私の手のひらに団子虫を乗せたのだった。