その王子様とやらは割とすぐに見つかったらしい。
なんでも女の子たちの集団を見つけて近づいてみると、その輪の中に王子様がいたのだと言う。

「背が高くて、髪が茶色くて、ほんとにきれいな顔してるの! にこっと笑ったら歯並びのきらいな歯がきらっと見えるのね! 手足もすらっとしてて、ただの白いシャツがすごくおしゃれに見えた」

お昼時の学食はかなり混んでいて、ちょっと大きな声を出さないとお互いの声が聞き取りにくい。
私は、日替り定食の照り焼きチキンを咀嚼しながら、はいはいとかふぅんとか適当な返事を返した。

「けどね、周りに女の子がいっぱいいたのよ。四、五人に囲まれてた。もう王子様っていうあだ名でよばれてるみたい。あれ、医学部の子かな。全く、医学部は医学部内でなんとかしろっての」

医者の卵がたくさんいるくせに。
麻衣は悔しそうにぼやいて、髪コップのコーヒーを一口飲む。

周りに女の子がいっぱいねぇ。
一体、どんな人なのだろう。
王子様って呼ばれて、本人はどう思っているんだろう。
恥ずかしくないのかな。
なんとなくだけど、女の子に囲まれてすました顔で歩く男の人が頭に浮かぶ。
顔がいい男っていやだな。
性格悪いに決まってる。
見るだけならいいかもしれないけど、仲良くなりたいとかまして付き合いたいなんて、私は思わない。

「ほんとにかっこいいんだから。いくらイケメンに興味のない桜子でも、一度見たらすぐわかると思うな」

そうですかね、と笑いながら、食べ終えたお皿を重ねると立ち上がった。
王子様ねぇ。
同じキャンパスなのだし、そのうち会うこともあるだろう。
私からすれば、イケメンに会うことよりも、虫に会わないようにすることのほうが大事なことなのだけれど。