「そういえばさ」

なにかをふいに思い出したように、ケイタが口を開いた。
顔を見ると、なにかよくないことを思い付いた子どものように、にやにやとしている。

「らこちゃん、虫王子と付き合ってるってほんと?」

「はあっ!?」

ケイタは私のリアクションを見ると「それこそ、『ないない』だよなぁ」と言いながら、お腹をおさえて笑い出した。

「虫王子だけはないよなぁ」

「なによ、それ」

別に、なくは、ない……と思う。

体をふたつに折り曲げて肩を震わせているケイタの茶色い頭をぺしん、と叩いた。

「だってさ、らこちゃん、あんなに虫嫌いなのにさ、付き合えないでしょ」

やっと笑いのおさまったケイタは目尻にたまった涙をごしごしと拭きながら、起き上がった。

「はっきり言わなかったけど、俺と別れた理由だってあれでしょ?」

「……う。知ってたの?」

「んー。なんとなく。あの日から急にうち遊びに来なくなったし」

「あー、ばれてた?」

「わかりやすすぎる」

さっきのお返しなのか、頭をゆるくぺしん、と叩かれた。
私の三分の一くらいの力加減で。