この命が尽きる前に。
奪われてしまう、その前に。
何としても行動を起こさなければ。
ッ。.......。
そんな想いとは裏腹になかなか自由にはならない両手。
動かす度に痛みが襲うが構わなかった。
そんな小さな痛みなどどうでもよかった。
.......。
だが暫くの奮闘の末にアスラは溜め息と共に脱力した。
「これは......駄目だ」
腕に縄が食い込むばかりで状況は悪化する。
これ以上は無駄だと悟った。
(さぁ....どうするか)
アスラは頭の中で状況奪回の手立てを探ろうと精神を集中させて瞳を閉じる。
紅の瞳は閉ざされて考えに浸る。
────。
カッ....カッ。
瞳を閉じる。
暫く静寂な空間に身を委ねて良策が浮かぶのを待つことにした。
だがそんな中、静かな空間に聞こえてくる地下へと降りてくる足音。
あぁ、折角の静寂が台無しだ。
静かな空間に響くその足音はアスラにとって非常に耳障りに聞こえた。
(煩いな。
誰か見回りにでも来たか)
目を閉じたままそう思った。
だがすぐに意識は自分の頭の中へと戻り近付く足音を意識から排除した。
────カッ...カツンッ。
足音が唐突に止まった。
暫く意識から外していたが足音が止まったことによりアスラは再び耳へと意識をやる。
どうやら今その足音の主はアスラの居る牢の前に止まっているようだ。
人の気配。
静寂な空間でそれを感じ取る。
目を閉じたままのアスラ。
牢の前で止まった足音。
........。
両者の間に暫しの沈黙が流れて空間を支配する。
(見回りにしては.....長いな)
足音が止まって沈黙が支配してもうかれこれ数分が経つ。
普通の見回りならば異常がないか確認をしてすぐに立ち去るはずであるのに相手は動きもせずに居る。
しかもその視線はずっと自分一点に。
アスラは目を閉じていてもその足音の主から視線を感じていた。