彼女は盗賊だった。
つまりは紛れもない悪だった。
なのに何なのだろう、この感情は。
シュリには何故だか彼女が本当の悪であると思うことが出来ずに居た。
幾ら自分に言い聞かせてもその感覚が拭えなかった。
「―――もう一度あいつに会わなきゃならない」
再び会うということは必然的にまた彼女が捕らわれた時となるだろうが。
逃亡した罪人を早く捕らえたいという王としてのものよりもただ純粋に再び彼女と話がしたいというシュリ個人の想いから出た言葉だった。
ッ。
「.......。
夜分に失礼を致します」
一人考えに耽るシュリ。
そんな彼の元に二度目の来客が訪れる。
「レストか?」
「左様に御座います」
予想外の来客だった。
紅の盗賊探索についての報告かとも思ったが、それはつい先程受けたばかりである。
ならば何用で?
扉の向こう側の聞き慣れた低い声にシュリは小さく首を傾げる。
「入れ」
「では失礼致します」
ギィイッ。
シュリの簡潔な指示の数秒後、再びの低い声と共に扉が開く。
扉の向こう。
見える姿はよく見知った中年の眼帯の男。
フッと穏やかな笑みを浮かべ優雅に一礼をするこの国の参謀であるレストの姿があった。
「何かあったのか?」
「いえ、この度はシュリ様に御報告に参りました」
「報告ならば先程受けた。
今日も成果は無し、紅の盗賊の行方は未だ掴めないようだな」
「えぇ、確かにその報告に間違いは在りませぬ。
不甲斐ないばかりで御座います」
「......では何の報告に来た?」
対面する二つの影。
その会話の中で当然浮かぶ疑問をシュリが投げ掛ける。
「紅の盗賊―――奴が所属する盗賊団に関する報告に御座います」
「っ!」
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