「ハチ。ミーコのことごめん」
その帰り道。ハチは私の足を気遣いながらゆっくりとしたスピードで歩いてくれていた。
探してるときは感じなかったのに、こうして見慣れていない道を歩くと随分遠くまで来ちゃったんだなって思う。
「ナナは知らないかもしれないけど、ミーコ何回か脱走してるから」
「え……そうなの?」
「家猫だからストレスが溜まるとこうして外に出るんだよ。んで、どっかで遊んできて満足したら真っ黒になって帰ってくる」
「知らなかった……」
「普段は窓が開いてても出ないし、むしろ出たい時は勝手に開けるし。だからナナのせいじゃない」
そう言われてホッとした。
でも今度から玄関の開け閉めには気をつけなきゃ。万が一ってことがあるし、今回のことがまた起きたら私の心臓がもたない。
「……ハチ寒くないの?」
私に上着を貸したせいでハチが薄着になってしまった。
「寒くねーよ。どれだけ探したと思ってんの?」
「う……ごめん」
ハチの口調はまだ不機嫌なままだった。
きっとハチのことだから相当走り回ってくれたに違いない。その様子が目に浮かんで胸がぎゅっとなった。
「前にもこんなことあったよね。ほら小学生の時に私が家出したやつ。あの時もハチは私を探してくれたんだよね」
「あー。俺がキレたやつね」
そうそう。あれは忘れもしないよ。
ハチの目が本当に怖くて。まぁあの時は私がハチには関係ないとか言っちゃったのが悪かったんだけど。
「今日も怒ってる……よね?」
聞かなくても分かるけど。
だってさっきから私の目を見ないし、私はずっとハチの背中だけ見てる感じだし。
「もっと怒ってやろうと思ってたけどやめた」
「……?」
「ナナが無事だったから。だけど今度からはすぐ俺に連絡して。ひとりで無茶なことは絶対にしないで」
ハチの優しさにまた泣きそうになってしまった。