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「七海、これ瞬くんの家に持っていって」
「えー」
その日の夕方、お母さんは作りすぎた煮物をタッパーに入れて私に渡した。
おばあちゃんから大量に人参や里芋を貰ったって言ってたけど、食べきれないほど作らなくてもいいのに。
私は部屋着のまま外に出て、ハチの家のインターホンを押した。……が、すぐに壊れていたことに気づく。
とりあえずドアを開けて中を覗いてみた。
「お母さん~。ハチのお母さん~!」
返事はない。
リビングの電気はついてたけど、きっとまたふらっとご近所さんに行って長話でもしてるんだろう。
私は預かった煮物を玄関に置いた。
置き手紙をしなくてもうちからだって分かるだろうし、逆に煮物自体にハチのお母さんは気づかない可能性があるから、分かりやすくど真ん中に置いておいた。
ハチはまだ家に帰ってきていない。
田村くんたちと放課後遊ぶって言ってたし、部屋の電気もついてなかったから。
考えてみれば私って裕子と遊ぶ以外は毎日まっすぐ家に帰ってるなぁ。ハチみたいに友達は多くないし、社交的でもないから勉強してた方がラクだけど……。
ハチが忙しくしてると私は手持ちぶさたのような気持ちになる。
いたらいたで勉強はできないし、やることが増えて大変だけど、きっと私の日常にハチの世話という項目が入っていて、それがないと調子がでない。
――その時、ブーブーッとポケットでスマホが鳴っていた。
またか、とため息をつきながら確認すると受信ボックスには健二くんの名前。