「じゃ俺も聞くけどナナはアイツのこと好きだったの?」

アイツとは間違いなく健二くんのこと。


「好きなわけないじゃん」

今は顔も思い出したくない。

騙された私も悪いのかもしれないけど、まさかこんな展開になるなんて夢にも思ってなかったし。


「デートしたのに?」

「それは……って、ハチに言われたくない!わ、私だって恋愛に興味がないわけじゃないし。ってか私に彼氏できたらいいねって言ってたじゃん」

「できたらいいねとは言ってない。できたら教えてねって言ったんだよ」


そんな細かいこと覚えてないよ。

むしろハチは口うるさく言われる機会が減るから、私に恋愛してほしいって思ってるんじゃないかって思ってた。


「じゃ、私に彼氏ができてもいいんだね」

「いいよ。ナナが本当に好きな人できるなら」


まるで、できないみたいな言い方。

悔しいけど自信ないよ。だって大切の基準が上すぎる。ハチを越すほどの大切な人なんて、きっときっと現れない。


「……私に近づくなって言ったくせに」

けっこう根にもってるんだから。

そもそもあんなに私のこと避けてたくせに今は普通だし、仲直りだってしてないのに喧嘩の〝け゛の字もどこかにいっちゃった。

するとハチは少しだけ口を濁らせた。


「……だって風邪うつるだろ」

「へ?」

「高校では内申書の為に皆勤賞取るって前に言ってたじゃん。だからうつしたくなかったんだよ」


……まさかそんな理由で避けられていたなんて。

たしかに今までの経験上、同じ菌なのに回復力の違いなのかハチは1日あれば元気になるけど、私はなぜか1週間ぐらい毎回寝込む。

それで小学校と中学校の皆勤賞は逃した。

だから高校では狙いたい、みたいなことを言った気もするけど……それで近づくなって言われるこっちの身にもなってほしい。


「ハチってけっこう言葉足らずだよね」

「それはお互い様だろ」