「愛想つかされたわけじゃないと思うけど、そんなに八島くんを激怒させるようなこと言っちゃったの?」


東側のトイレは薄暗くておまけに花子さんの噂まである。普段は怖いはずなのに今は別のことが怖くてそれどころではない。


「わ、わからないけど健二くんに焼きもち妬いてんじゃないの?とかモテるの自覚してるとか、女の子にちやほやされて内心は……みたいなことを……」

先生の見廻りの為に一応掃除用具は手に持ってるけど、もちろん掃除する気力もない。


「あー。男ってプライド高い生き物だから図星っぽいこと言うと嫌がるよね。私の彼氏もそうだから八島くんも多分……」

「そ、そうなの?私はけっこう軽い気持ちで言ったんだけど」

ハチにプライドがないとは言わないけど、そんなことで激怒するなんて知らなかった。


「普通に謝れば大丈夫だよ」

裕子は床に水を撒いてせっせと汚れを落としていた。

一斉掃除は全学年共通で校内はいつもより騒がしい。しかも掃除の時間にかかる軽快な音楽もスピーカーから流れているけど、それさえも今は耳障りいうか……。


「でもなんか話しかけづらくてさ」

おはようって朝の挨拶からはじめる?いや、その前に風邪はよくなったの?って聞くべきだよね。

いっそのことまたヤッホーとか言ってみる?

……やめよう。絶対シカトされそうだ。


「いつもみたいに自然でいいんだよ」

「だけどタイミングが……」

「八島くんそこにいるよ?」

「え?」


裕子が指差す方向を見るとハチが廊下で窓拭きをしていた。