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その日の夜、リビングでテレビを見ていると突然窓ガラスがコンコンッと鳴った。一瞬ビクッとなったけど窓の向こう側に立っていたのはハチのお母さん。


「ど、どうしたの?」

お母さんは台所で油を使ってるらしく、私が窓の鍵を開けた。


「こんなところからごめんね。インターホン鳴らしたんだけど壊れてるのよね。だから庭のほうからお邪魔しちゃった」

へへって笑う顔は本当にハチにそっくり。

ハチも庭から来たことあるし、親子って行動パターンも似るのかも。


「これ実家から送ってきたリンゴなんだけど、うちだけじゃ食べきれないからどうぞ」

白い段ボールの中には真っ赤に色づいた美味しそうなリンゴ。ハチのお母さんは青森出身だから寒い季節になるとこうしてリンゴが届くらしい。


「わぁ、ありがとう。お母さん今手が離せないみたいでごめん」

「いいのよ。この前の煮物のお礼だって伝えて」

お母さんたちの関係ってなんかいいな。私も大人になったらこんなご近所付き合いがしたいとか思ったりして。


「……あのさ、ハチは家にいるの?」

迷ったけど聞いてみた。

ハチのお母さんが帰ったあとで聞けばよかったって絶対思いそうだし。


「瞬?家にいるわよ。でもなんか具合悪いみたいで下に降りてこないのよ」

「具合?風邪でもひいたの?」

「多分ね。まったく風邪もらってくるなんてお父さんと一緒。私なんてここ数年は風邪のひとつもひかないっていうのにね」

ハチ風邪ひいてたんだ。

だから今日お昼まで寝てたのかな。朝も会ってないし学校でも顔を合わせてないから気づかなかった。


「大丈夫そうなの?私様子見に行っても……」

「あ。それがね、瞬はなぜか七海ちゃんを家に上げるなって。俺が風邪だって知っても近づくなって伝えてって……。どうしちゃったのかしら。あの子」

なにそれ。

そんなに私のこと避けたいってわけ?