ハチが私に意見を言うことはあっても、だれかを否定したりすることはない。
ハチは人の気持ちが分かる人だから、悪口とか傷つくことには敏感なはず。
「……な、なんで?」
だからこんなことを言うなんてビックリを通り越して、ハチがハチじゃないみたい。
「なんとなく。勘」
ハチの勘は野生的に当たる。だけど今はそんなことどうでもいい。
「……なんでハチにそんなこと言われなきゃいけないの?やめるもなにも健二くんとは友達だし」
「でもナナは男とふたりで遊びに行ったりしないじゃん。それってあわよくばっていうか、いずれみたいな気持ちがあるのかと思って」
見透かされてるみたいで恥ずかしい。
たしかに今後というか……ちゃんと考えようとは思ってたけど。
「だ、だったらなんなの?やめた方がいいとかハチは健二くんのことなにも知らないでしょ?」
「ナナだって知らねーじゃん」
「ハチよりは知ってるよ!それにハチにあーだこうだ言われたくない。ハチだって女の子と遊んだり、好きな人できたり、彼女作ったりしてるじゃん。その子たちのこと私が一回でもやめた方がいいなんて言ったことある?」
中には性格の悪い子とか明らかに猫被ってる子とかいたよ。
でもそれはハチが決めることだから。私から見てその子があまりいい子じゃなくても見守るって決めてた。それなのに……。
「あ、もしかしてハチ健二くんに焼きもち妬いてるんじゃない?」
「は?」
「ほら、健二くんハチよりモテそうだし好青年って感じでハチにはないもの持ってるじゃん」
なんでだろう。口が勝手に動く。
「なんだかんだハチって今まで女の子にちやほやされてたもんね。モテるって自覚はあるだろうし、私があの人カッコいいって言ってもそう?って流してたじゃん」
「……」
「それって内心は俺の方が上だしとか思ってたんじゃないの?」
「……」
「それでハチよりイケメンの健二くんを見たから、やめとけなんて私に……」
「それ本気で言ってんの?」
気づいた時にはもう遅くて、ハチがすごい怖い顔をしていた。数秒の間沈黙になって、そのあとハチがぽつりと言った。
「今日のナナはなんか嫌だ」
そのまま歩き去っていくハチ。
私はそれを見ながら今度は追いかけなかった。