私はハチの影を追いかけるように自然とはや歩きになった。
「栗原先輩の家に行くんじゃなかったの?」
ハチはどうせ遅く帰ってくると思ってたし、今頃は先輩の家で……なんて想像しちゃったりもした。
「行くなんてひと言も言ってない」
「ふ、ふーん。その……行ったことはあるの?あるよねぇ。先輩の部屋ってなんかキレイでいい匂いしそう!はは」
「は?ないし。なんかテンションおかしくない?」
……ないんだ。
てっきり私は毎週のように出入りしてるもんだと。だったらハチはどこで……なんて過度な詮索はもうやめよう。
やっとハチに追いついて肩が並んだ頃、その歩幅をゆるめたのはハチだった。
「さっきの話」
「……え?」
「あのことってなに?」
ハチの視線が痛い。
そういえば栗原先輩がそれらしきことをハチがいるのに言っちゃったんだっけ。先輩に悪気はないし、私が隠してることも知らなかったんだろうけど。
「えーと、大したことじゃない。うん」
ここでバレたら今まで隠してきた意味がなくなる。するとハチは突然足を止めた。
「最近ナナって俺に隠しごとあるよな。今日だってあの人と遊ぶなんて俺に言わなかったじゃん」
怒るというよりは拗(す)ねてる顔。
だからカフェで会った時機嫌が悪かったの?
「……言わないよ。ハチだって別に言わないでしょ?」
だから私だって言う義務はない。
どこに、だれと、なんて全て把握していた小さい頃とは違う。言えないことも、隠したいこともお互いに増えた。
そもそも今日健二くんと見た映画はハチが断った映画じゃん。期限もギリギリだったし、ハチが先輩と見に行けば私だってデートしなかったかもしれないし。
そうだよ。私は映画だったから遊びに行けるかもって思ったわけだし、それをわざわざハチに言うわけ……。
「あの松本って人やめた方がいいんじゃない?」
やけにハチの声が響いて聞こえた。