「なんか美味しそうに食べてる子ってけっこう好きなんだよね。友達に話してもあんまり理解してもらえないんだけど」
健二くんはそう言ってコーヒーをひとくち飲んだ。
「私はちょっと分かる気がする」
「え?」
私が料理を作る時は必ず食べてくれる人の顔が浮かぶ。
ひとりだと面倒くさいことも『そういえばこの前これ食べたいって言ってたな』とか『お弁当のおかずのレパートリー増やしてあげようかな』とか料理の本を読んで片手間に勉強したりしてるし。
だから私は自分が食べるよりも、食べてくれる人を見るのが好きなんだと思う。
ハチは特になんでも美味しそうに食べてくれるから、それを見てるのは飽きない。
「なんか俺たち気が合うね。七海ちゃんといると時間を忘れるっていうか……うん。なんかすげー楽しい」
健二くんの顔が赤くなっているのは気のせいじゃないはず。
「七海ちゃんさえ良かったらまたこうして休みの日には一緒に出掛けない?俺もっと七海ちゃんのこと知りたいんだよね」
健二くんは本当に直球な人だ。
私だって印象がよくない人だったらこうして映画に誘ったりしないし、お茶を飲むことだってなかったと思う。
健二くんが言ってるのはこのまま気が合う男友達としてっていう意味じゃないことぐらい私でも分かる。
私だって恋愛に興味がないわけじゃないし、憧れる感情だって多少はある。だけど……。
「あれ~。七海ちゃん?」
突然声をかけられて振り向くと、そこにはなぜか栗原先輩の姿。
「こんな場所で会うなんて偶然だね!」
栗原先輩はファーが付いている茶色いコートを着て、肌寒いのに膝上のスカートだった。先輩の私服ってはじめて見たけどやっぱりオシャレだな……いや、ちょっと待って。
栗原先輩がここにいるってことはもしかして……。
「ねー瞬もまさか七海ちゃんに会うなんてビックリだよね」
先輩の後ろから店内に入ってきたのはハチ。