友達と楽しそうに話していた実音が席を立った。
このまま友達と帰るらしい。
それなら今、呼び止めないと。
いや、いきなりは無理か。
だけど思えばいきなりじゃない時なんてこの先もう一生ない。
席を立つと、歩き出した実音の背中に声をかける。
「あのさ…」
振り向いた実音の表情はあきらかに怒りに満ちていた。
そうだよな…。
さっきもこいつがもらったチョコ、横取りしちゃったし。
それだけじゃない。
今までもいろいろからかってきたしな。
当たり前の反応。
それでも心を折られたような感覚になるのは、1ミリでも期待があったからなんだろうな。
「いや…ごめん、何でもないわ」
結局、そうごまかして自分の席に戻って来てしまう。
チラッと見た実音は何事もなかったかのように友達と笑顔で話しながら、教室を出て行ってしまった。