オレンジ色に染まる廊下を早足で歩く。


今日は所属しているバスケ部の練習が早めに終わった。


教室で待つ莉菜子(りなこ)を思い浮かべるだけで、自然と早足になる辺り、俺は本当に莉菜子に惚れていると思う。


本人には絶対言えないけど。


何気なく窓の外を見ると、手を繋いで楽しそうに歩いていく男子と女子の姿。


それに自分たちの姿が重なる。


今日はどっか行けるかな。


最近、部活が忙しくて全然デートも出来ていなかった。


とりあえず相談してみて、あいつの行きたいとこ今日は文句なしに付き合おう。


そんな計画を立てながら、自分の教室に入りかけて足を止めた。


「えー、いいなー、ホント羨ましいー」


「えー?ホント?うちはいっつもそんな感じだよ」


こっちに背を向けるようにして何やら盛り上がっている2人の女子。


彼女の莉菜子と、もう1人はその親友、若松だ。


教室に入りかけたその一歩を引っ込めて、隠れるように話の続きに聞き耳を立ててしまう。


「いいなー、そうやって言葉にしてくれる彼氏って本当に羨ましい」


「桐山くんだってちゃんと言ってくれるでしょ?」


「無理無理。咲斗(さくと)はそういうの絶対言ってくれない。好きだよとかも滅多に言わないし」


何の話をしてるのかと思えばそういう話ね…。


「正直に言ってみれば?たまには素直に言葉にしてくれないと不安になるよって」


「無理だよ、絶対」


顔を見なくてもわかる。


莉菜子は今、絶対に不満そうな表情を浮かべている。