ーー 〜♪〜♪

その時、夕暮れを告げるチャイムが町中に鳴り響いた。

2人同時に腕時計を見る。僕は右腕、詩織は左腕。

17時半だった。

もう、詩織は帰らなければならないのかもしれない。

そう思ったら……もう詩織には会えないのかと思ったら、やっぱり心がギュッとなった。


「ね、南に新しくできたパン屋さん知ってる?」

帰る素振りは見せずに詩織は僕を見た。

「え?パン屋?知らないな」

詩織がまだ帰らないと分かってホッとしている自分に、少し戸惑う。

「エラーブルって言ってね、クロワッサンがすごく美味しいの!」

「へぇ!僕はパンが大好きだよ」

「ほんと?じゃ、お店の場所教えるから今度行ってみて!」

僕の反応が嬉しかったのだろう、詩織は意気揚々と場所の説明を始めている。

パンが大好きなのはウソではない。その新しいお店にも興味がある……でも、でも僕は……。


「……じゃあ、今度一緒に行かない?」


僕はパン屋よりも詩織に、興味があったんだ。